2019年度の卒業研究では、星野村というフィールドを新規開拓する傍ら、人々の星に込められた想いを解明することを目指し、ライフストーリー・インタビュー法を用いた質的研究を行いました。信頼性の高いデータを得るためには、まず村民の方々に話しかけて関係を構築することから始めます。そして、関係が構築されたら研究協力者にアポを取って1対1のロングインタビューを実施しデータを収集します。集めたデータはグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)に依拠した分析を行い新たな概念の創出を試みます。GTAは、既存の理論的な枠組みに当てはめるアンケート調査と違って、人々の語りから理論を構築し意味世界を理解するアプローチ方法で、理論がじゅうぶんに発展していない天文文化論では有効な手法です。

フィールドワークの風景

フィールドワークの成果は卒業論文という形でフィールドに還元します。またサイエンスコミュニケーションの一環として、私たちの研究の途中成果を村民の方々の前で発表を行い、成果について意見の交換を行いました。

星野未来塾での中間報告

フィールドワークの風景
インタビュー調査の風景
インタビュー調査の風景
インタビュー調査の風景
インタビュー調査の風景
インタビュー調査の風景
インタビュー調査の風景
ヒアリング調査の風景
ヒアリング調査の風景
ヒアリング調査の風景
ヒアリング調査の風景
星野未来塾での調査報告
星野未来塾での調査報告
星野未来塾の様子
星野未来塾の様子
山留センターでアンドロメダファイト
山留センターでアンドロメダファイト
研究成果​​​​​​​

2019年度フィールドワーク全体の概要について日本天文学会2020年春季年会にて発表を行いました。

池田優花
星野村住民に対する星空への関心度向上に向けたアクションリサーチ
概要
 福岡県八女市にある星野村は、過疎高齢化が問題となっている地域の一つである。星野村の人口は2020年1月末時点では2385人で、2030年には人口が1,760人まで減少する見込みである。この問題に対して、星野村では星野村の資源である星を取り入れ地域活性化をしようとする住民主体の星野未来塾が存在している。星野未来塾は人口減少を食い止め、2030年に星野村の人口を2,500人にしようと活動している。さらに星野未来塾の代表である山口聖一氏は西日本新聞の取材に対し、「目指すは住民による村の経営共同体。村を挙げた取り組みに広げていきたい」と述べている。ところが、初期調査におけるヒアリング調査では、①星野村住民は星や星野村への関心の低さ、また②星野村の魅力を十分に発信できていない、という2つの課題にたどり着いた。そこで、本研究では、星野村で現在行われている地域活性化活動が村を挙げた取り組みになることを目指した。そのためにまず調査を通じて「住民が星空へ目を向けるきっかけを作ること」と「住民の星と星野村に関する関心度を向上させること」を目標に設定した。本研究で得られた成果は、今後の星野村の活性化活動に役立つと期待される。
 研究方法は、星野村で育った住民の方々に「好きな場所」や「思い出の場所」、そして「星野村への思い」に関するインタビューを実施することである。その過程を通じて、星野村で育った住民の方々の「星や星野村への関心度」が向上することを期待する。2019年8月および10月に実施したインタビュー調査によって、実際に、住民が抱く星野村の現状や今後の星野村への理想像の収集ができた。インタビューデータの分析から、年を重ね、身の回りの生活環境が変化していくとともに住民の星や星野村への思いが変化していることが分かった。また今後の星野村の理想像として、住民は「交流人口の増加」や「地域資源の活用」を期待していることが分かった.さらにインタビューによって住民の星や星野村への関心度の向上ができた。
 以上の結果から、地域活性化活動により多くの人の意見を取り入れ、村全体で意識の統一を図ること、そして星野未来塾では幅広い世代の参加者を求め、同塾の認知度を上げる活動を進めることによって、星野村の地域活性化が、山口聖一氏が期待する「住民による村の経営共同体」と「村を挙げた取り組み」に近づくのではないかと私は考える。
笹野美駒
星のソムリエ®資格制度が受講生にもたらす影響~星野村・星のソムリエ®講座 準ソムリエを事例に~
概要
 経済協力開発機構(2015年)によると、日本の高校生の科学に対する興味感心は、他国に比べて低く、また文部科学省(2006年)によると、大人になってからも興味関心がすぐには持ち直すわけではない。したがって、日本の大人の科学技術に対する感心も世界的に低い水準であることが予想される。この問題を解決するためには、科学と社会をつなぐ何らかの取り組みと、それを担う人材の育成が必要である。天文・宇宙と市民をつなぐ役割を担う取り組みの一つとして、「星空案内人(通称:星のソムリエ®)」資格認定制度がある。星のソムリエ®は準ソムリエと正ソムリエの二段階で構成された民間資格である。本研究では、準ソムリエの活動実態とそれに付随してもたらされる効果について解明することを目的とし、福岡県八女市星野村・星の文化館で準ソムリエの資格を取得した星のソムリエに対してインタビューを行った。
 分析の結果、準ソムリエは、資格取得後、天文ボランティア団体に所属し科学館でボランティア活動を行ったり、自主的に子供向けの観望会を開催したりするなど、星のソムリエとして天文普及活動に従事していることがうかがえた。また、その活動に付随してもたらされる資格の副次的効果も明らかとなった。たとえば、受講過程で広がった人間関係によって、天文普及活動の機会が増えたり、資格に対して誇りと自信が得られたりする一方で、準ソムリエ資格取得後も天文知識が不足していると感じ、天文ボランティア活動時に準ソムリエであることをアピールしなかったり、自分より天文知識が豊富な星のソムリエと比較して劣等感を感じたりするなどの事例もある。また、受講を通じて感じた星野村の魅力が、受講者自身の星野村に対する愛着を引き出し、美しい星空という星野村の魅力を村外へ発信する星のソムリエ®へと成長する事例があった。したがって、星のソムリエ®が星野村と一体となり、天文普及活動を実施していくことは、星野村の地域活性化活動にとって有効であると考える。
 また、本研究を通して、ボランティア活動の敷居の高さから、自分が理想とするボランティア活動に参加できていない星のソムリエが存在することが分かった。この問題を解決するために、参加しやすいボランティア活動の機会を第三者が彼らに提供する必要があると考える。そうすることで、今まで積極的に活動できていなかった星のソムリエの活動機会が増え、結果的に天文・宇宙の社会的な理解促進の活性化につながることが期待できる。
髙橋あゆみ
ライフストーリーインタビュー法を用いた星と星野村住民の関係性の調査
概要
 日本では昭和末期より人口減少・少子高齢化が問題視され続けているが、地方圏から都市圏への人口流出により、地方におけるこの問題は都市部の比にならない。福岡県八女市星野村もその一例であり、人口は1940年に9296人とピークを迎えたが、2020年1月の時点ではおよそ4分の1の2385人である。これ以上の過疎化の進行を抑えるため、星野村では住民主体の持続可能な地域活性化が求められており、実際に「星野未来塾」という住民主体の村づくりプロジェクトが人口維持を図っている。
 そこで、本研究では、星を活用した地域おこしを行っている星野村を事例とし、星野村住民の星との関わり方を明らかにすることで、住民主体の地域おこしを進めるための方策を検討することを目的とした。そのために、「星野村住民と星の間にはどのような関係があるか」と「星野村住民と星の文化館の間にはどのような関係があるか」という2つの問いに従い、調査・分析を進めた。調査方法は、2019年1月および6月に星野村における初期調査、2019年8月および10月にライフストーリーインタビュー法を用いたインタビュー調査を行った。インタビューデータの分析を行った結果、星野村の住民が星に興味を持つ要因としては、星野村が星を見るのに適した綺麗な星空環境を有しているということが挙げられた。一方、「日常生活の忙しさ」や「星が見えるのは当然という思考」などは、星空に触れる機会を減らす要因となっていることがわかった。また、住民の星の文化館への来館頻度は低いものの、星の文化館に訪れた際には、住民は、施設やスタッフの対応力に満足し、そして星の文化館へ期待を抱くことがわかった。
 以上の結果を踏まえて、星を活用した住民主体の地域づくりを行うには、星への関心が低い住民にも、星野村の星に意識を向けてもらう必要があると考える。星の文化館に来館することは、住民の星への関心を向上させる効果があることがわかったため、住民に星に意識を向けてもらうための方策のひとつとして、住民が参加する星の文化館を利用した企画は有効であると期待できる。
戸澤理紗
「星の村」活性化に向けたアクションリサーチの検討
概要
 我が国は現在、深刻な高齢化・人口減少問題に直面している。地方では、過疎化も進行し、人口規模の小さい市町村は存続の危機に立たされている。そこで近年機運が高まっているのが地方創生である。これまでに様々な地方創生の取組事例があるが、鍋山(2018)はそれらを検証し、地方創生の成功要因として「自立性(キーパーソンの有無、地域の一体感の有無、補助金を前提とした行政主導型ではなく民間主導型)」「着眼性(地域資源の発達とブランド化)」「開放性(地域外の人材と知恵)」「長期性(短くて3~5年、長くて10年以上)」の4つを挙げている。
 本研究では、過疎高齢化が深刻である福岡県八女市星野村を事例として、文献調査と現地調査に基づき、星野村の地方創生の現状評価と今後の方向性について検討を行った。星野村では、「星野未来塾」という団体が2018年に発足し、「星」やSDGs(持続可能な開発目標)を取り入れた地方創生への取り組みが始まっている。鍋山(2018)が挙げた成功要因を踏まえ、星野未来塾の活動を評価した結果、この団体は住民主体で月に1度集会し(自立性)、村内・村外の人々で(開放性)星野村の地域資源を活かした取組(着眼性)により2030年に向けた村づくり(長期性)を計画しており、地方創生の成功要因を備えていると言える。しかしながら、星野未来塾の認知度や住民参加率、組織内の一体感、そして具体的な取組内容には改善の余地があることがフィールドワークの結果明らかになった。そこで、星野未来塾を中心にして星野村活性化を目指すために、筆者が2020年4月から2022年3月までの2年間で行う以下のアクションプランを立てた。具体的には、①星野未来塾の周知活動、②未来塾一体化のための環境整備、③「星の文化館」の地域的価値向上に向けた星の6次産業化、④廃校を利用した地域イベントの開催、の4つである。①と②では、「星野未来塾」の自主性の向上を期待し、団体の認知度や参加率および一体感を高めることを目的とし、③と④では、それぞれ「星の文化館」と「廃校」を地域資源として活用し着眼性を確保することを目的とする。また、持続可能性の観点から、これらの取組成果を継続的に評価し、状況に応じたフォローアップを施すことによって、循環的なプロセスの構築を図る。
守角夏海
星景写真を通じた天文普及効果と地域活性化の可能性についての考察―星野村で活動する星景写真家を事例に―
概要
 星景写真とは、風景と星空を同時に撮影することで、単独の星の写真とは異なる相乗効果を考えた写真ジャンルである。また、星景写真は作者の心象風景を写しだす写真であり、通常の天体写真より、一般の人々に興味を持ってもらいやすいとされている。そこで、星景写真家の撮影時の心象等を調査し、星景写真が与える心理的影響について考えた。
 本研究は、地域おこしの軸として天文文化を取り入れている福岡県八女市星野村を事例として調査を行った。星野村には、星野村を拠点に活動する星景写真家らによって、星景写真を用いた宣伝活動がSNS上で行われているということが初期調査で分かった。したがって、本研究では星景写真に着目し、星野村で活動する星景写真家へのインタビュー調査を実施することによって、星景写真がもたらす心理的効果と、星景写真を利用した地域活性化の可能性について検討を行った。
 本研究で得たインタビューデータの分析を通じて、次の3つが明らかになった。まず、①星景写真家の撮影時の心象には、宇宙の広大さや星の綺麗さを表した人の心を動かす星空を撮りたい気持ちがあること、そして、②星景写真は撮影者自身にも宇宙の広さや美しさを感じさせ、現実離れした想像をかきたてるなどの心的影響を与えること、さらに、③星景写真家は自身が星景写真を見たときに感じた感動や魅力を他者にも伝えたいという思いがある、ことである。また、彼らの星空の魅力を広めたいという思いや星野村への愛着から星景写真家がサイエンスコミュニケーターや観光支援の役割も担えると期待できる。このように、地域に愛着を持つ人々が地域資源を活用し、地域に根差した宣伝やイベント等の活動を提案することで地域活性化に繋がることが期待できる。

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